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今田束『實用解剖學』卷三 明治33年十版

今田束(1850-1889)+小金井良精(1858-1944)『實用解剖學』卷二 明治三十三年二月二十五日十版 萬谷堂刊
今田束『實用解剖學』卷三 明治33年十版(前半)
ここのところ共同制作の本のための調べものを集中してやっているため、当目録や附属展示館の方は更新がどうしても疎かになりがちだが、どうか長い目で生温かく見まもってやっていただきたい。
初学者向けに書かれた、明治の解剖学書の続き。本篇では心臓と血管、リンパ管、そして脳と神経について、丁寧な図解つきで説かれている。
著者は解剖学の中でも血管と神経を専攻して研究を重ねてきており、この本にもその成果が反映されているとの自負が序文に現われている。そして、こうした微細な組織が精妙に体内に組み込まれており、それが決してあてずっぽうなどではなくどの人体でも決まったところを縫って収まっているさまを実地に観察したときの感歎ぶりも、同時によく伝わってくる。
この時代にはやっと、X線撮影装置によって生体内の骨の様子が見られるようになった段階であって、柔らかい臓器や輸液管などの働きを観察する術はなかった。そのためこの巻でも、血液の流れなどについてはすべて「想像」となっている。
今田束『實用解剖學』卷三 明治33年十版(後半)
前の二篇同様、図版の大部分は男性のモデルによって描かれているが、胎児と胎盤との間を含む血管の繋がりなど女性特有の造りについては当然ながらその図解が入っている。当時最新の情報を盛り込むべくドイツの解剖学書を少なからず参照していることが書かれているが、人物の顔がバタ臭いのは図版もそうした洋書を下敷きに描いているからだろう。
大脳の図解で海馬と比較させるためにタツノオトシゴの絵が添えてあるのは今田のオリジナルかどうかわからないが、その可愛らしい略画は氏のユーモラスな一面を感じさせる部分でもある。
なお巻末の彩色血管図は当初の版にはなく、著者亡き後遺族の依頼を請けて刊行を引き継いだ校閲者の小金井が増補したものであることが、自序の後に収録されている四版序文から知れる。


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